—リア充と人のことを揶揄して呼んでいた僕とは今日でおさらば。
そう、僕もリア充になったのだ。
僕は鹿児島市に住む大学生。実はつい最近、彼女ができた。嬉しくてたまらなくて、休みの日は毎日のようにデートに誘った。霧島、指宿、川薩、大隅……。 「鹿児島 デート おすすめ」で検索して出てくる有名なところは大抵行きつくしたと思う。 そして今。僕は彼女と次のデートのプランを考えている。 やばい。もう僕のデートプラン候補は手元にない。 こんなのかっこ悪い……どうする僕。 そう思っていると、彼女から意外な言葉が。
「鹿児島市内を回ってみない?車とか使わなくても行ける場所でさ!」
まじ?思わず声が出た。 鹿児島市内って、正直大型ショッピング施設や商店街ばかりで、買い物以外のイメージが湧かない。驚いている僕に彼女は言った。
「よーく見てみると、面白いとこいっぱいあるよ?」
笑みをうかべる彼女。それにしても面白い場所ってあったかな……。 不思議に思いつつ、デートの朝を迎えるのであった。
\ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!!!/
え!?
時計 \ 午前10時ダヨ /
まだおぼろげな意識でもそれは分かる。完全に寝坊だ。
こんなときに限って、アラームを1時間かけ間違えていた。
楽しみで前日から着る服をきめていたおかげで、僕は秒で家を出た。講義に遅刻しそうなときもこれほどまでには急がないだろうというほど急いだ。でも遅刻は遅刻。
めっちゃ怒ってる……。
「いい天気で良かったね!」
「……。」
「何読んでんの?あ、今日行くところの情報集めてる?」
「……。」
「……遅刻してすいませんでしたあああ」
「……。」
振り向いてすらくれない……。
「……甘いもの食べる。」
「……甘いもの!?甘いものね!!うん!!わ、わ、分かりました!!」
Yes以外の答えはない。
「じゃあ行こうかー」
まだ怒っているのか、彼女は僕の方を見ずに店を出る。
でも、心なしか後ろ姿はるんるんしているようにも見える。その証拠に……ほら、鼻歌が出た。
怒るのもデートを楽しみにしてたからだよな。
それにしても甘いもので許すなんてなんだかんだ甘いんだよな僕に。
かわいいなあ、もう。寝坊万歳。(結局僕は彼女にも自分にも甘い。)
そんなこんなで始まった僕たちの鹿児島市デート。眩しい日差しが、夏を感じさせてくれる。
鹿児島市内の移動と言ったら市電。
ほら、市電が来た。
「来たよ!乗ろ!」
どうやら、鹿児島中央駅に向かうらしい。
彼女のるんるんな横顔を見るのも束の間、あっという間に着いた。
市電と一口に言っても、昔ながらの市電から広告をまとった市電、日本初の国産低床電車と種類は様々。
鹿児島中央駅で市電を降りると
ほら、次は低床電車(ゆーとらむ)が来た。
今度は大きな像が現れる。
よく観光客の人が写真撮ったりしているこれ。一体、誰なんだろう。
「いつ見ても思うけど、この時代の若い人はすごいよね!」
ん?これ誰?
「これはね、若き薩摩の群像って言うの。
薩英戦争でヨーロッパの力を思い知らされた薩摩藩がイギリスに派遣した留学生たち。」
「藩の優秀な若者がヨーロッパで学問とか技術を学んできて、日本の近代化に貢献したと思うと、
自分ももっともっと頑張らなくちゃ!」
そうだよな。
鹿児島で生まれ育ったからには、先代の人たちに恥ずかしくない生き方を僕もしたい!
(寝坊して遅刻したけど)
そんなアツい決意を胸に2人は天文館方面へ歩いていく。
再び大きな像が・・・
これは知ってる!あの有名な大久保利通でしょ!!どうだ!!
「ふふふ(笑)」
自信たっぷりに言う僕をよそににやつく彼女。
「いや、どういう人かほんとに知ってんのかなーと思って(笑)」
大久保のとしみっちゃんでしょ!そりゃあ知ってるよ!!
鹿児島じゃ知らない人はいないでしょ!
「何した人?」
偉かった人・・?
「偉い人?(笑)答えになってないじゃない(笑)」
「大久保利通は西郷隆盛とともに薩長同盟の中心として倒幕運動で活躍したのよ。」
「倒幕は見事成功したんだけど、そのあとの政府幹部の多くは薩摩・長州出身ばかりで
自分たちの藩との関係を重視してたんだけど、大久保利通だけは違ったの。」
違った・・・?
「そう、彼は本当に国益になることだけ考えていた。
だけど義理人情の世界でもある政治の世界でその姿勢は冷酷非情とも言われて、
出身のここ鹿児島でも理解されなかったの。」
え・・国の利益を純粋に追い求めていたのに。
「そうよね、西南戦争で西郷さん率いる反乱軍を制圧したのも大久保利通だから
余計に西郷派の反発を買うことになったの。」
「でも・・・私は西郷さんと大久保さんには他の人にはわからないけれど
強いきずながあったんじゃないかなって思ってる!!!」
そんな経緯があったんだ・・。それにしても観光ガイドさんみたいだな。
でも、今まで何気なく暮らしていたけど、そういう視点で見るとおもしろいな。
歩くっていいかも。
そこから向かったのは、加治屋町の歴史ロードと維新ふるさと館
加治屋町という名前の由来はその昔、鍛冶屋が多かったかららしい。
鹿児島市街地を南北にわけるとても大きな川、甲突川。
西郷隆盛、大久保利通ゆかりの加治屋町ということで、
川沿いには武家屋敷や郷中教育で用いられたいろは歌を紹介する石碑など歴史情緒あふれる。
その歴史ロードの途中に維新ふるさと館はある。
近代日本の原動力となった鹿児島の先人たちの偉業を映像、ジオラマ、ロボットなどを使い
様々な展示・演出で楽しく学べる。
(維新ふるさと館Facebookページより)
「維新ふるさと館」
鹿児島市
(TEL/FAX)099-239-7700/099-239-7800
(開館時間)9:00-17:00(入館は16:30まで)
(休館日)年中無休
http://www.ishinfurusatokan.info/index.html
ここで時計は11時30分。
僕たちはお目当てのトンカツが待つ天文館に着く。
「お腹すいたあー」
僕だって朝から何も食べてないからぺこぺこだ。
「それは寝坊するからでしょー!」
と口をとがらせる彼女
「そのまえにさ、お参りしていかない?」
お参りとこれば、おみくじ。大好きな彼女との恋愛運はきっと大吉に決まってる。
きっとその大吉を見てもっともっと僕らラブラブになれるはず!(単純)
「うーん!ほんといい天気!来てよかったね!」
お、おっほん!
実は、この照国神社はだね、かの有名な島津斉彬公が祀られている神社なのだよ!
今度こそ僕だって少しは鹿児島の歴史について知ってることをアピールする。
「(くすくす)」
な、何がおかしいの?
「そしたらその斉彬公の娘はー?」
え・・・???
わからない(ぐぬぬ)
「あの篤姫よ?正確には養女だけどね。
13代将軍家定のもとに嫁ぎ、江戸城無血開城の影の立役者と言われてるの。」
相変わらずお詳しい・・・
成彬公の権力の大きさを感じつつも、腹が減っては戦はできぬ。
トンカツが頭の中で現れて消え、現れては消え・・・
「見て見てっ!大吉だよ大吉!!」
僕はどれどれ・・・
凶。
(なんなんだこのベタな展開は)
時間はちょうどお昼の12時。
鹿児島黒豚のトンカツにありつく。
とんかつならココ!
ご飯大盛りでお願いします!!
お腹すいた~
店員さん「うちは普通でも結構あるし、大盛りにしたらアンタ漫画みたいなご飯になるよ!」
え、ほんとですか?
そしたら普通で(笑)
「わたしは少なめで(笑)」
でてきたご飯は確かに軽く1合くらいありそう・・
それにもまさるトンカツのボリューム・・・!
肉厚で衣のサクサクがたまらない(幸せとはこういうこと)
「ほらほら落ち着いて食べなよ~トンカツは逃げないからさ~」
くぁwせdr!!
「何て言ってるの~(笑)ったく~」
「はい、あ~ん」
えdsjはれあdbkjcっっっ!
(めっちゃおいしいっっっ!)
それを見て笑う彼女。鹿児島のソースは甘いけどきっと僕らの方が(ry
「丸一」
鹿児島市山之口町1丁目10 鹿児島中央ビルB1F
(TEL)099-226-3351
(営業時間)11:30-14:00(ランチ)、17:00-21:00
(定休日)日曜日
お店を出た後は、お腹いっぱいだけど
歩いて西郷さんへ会いにいく。
西郷さんってこんなにも大きかったんだ。いつも車で通るくらいだもんな。
ファインダー越しに西郷さんとおんなじ格好をする彼女の姿に笑みがこぼれる。
そして西郷隆盛像からそのまま北に進むと鶴丸城跡が出てくる。
今は城壁のみで、周辺には県立図書館や市立美術館などが立ち並ぶ。
「見て見て~!弾痕が残ってるんだよね!ここ!」
弾痕・・・!?!?
ほんとだ・・・!
「ほらほら!お堀には蓮も咲いてる!!」
「こっちには鯉もいるよ!!!おーい」
はしゃぐ彼女とそれを見て喜ぶ僕。
「ちょっと木陰で休憩~」
(はしゃぎすぎだよ、まったく・・・)
結構歩いたし、涼しいとこで甘いものでも食べよっか
「ほんと!?わーいわーい!」
さっきもあれだけトンカツ食べたのに・・(笑)
カフェは鹿児島市役所の斜め向かい。
!?
そう、このお店SANDECO COFFEは愛称・数学カフェ
閉店後は数学塾に変身するなんともオシャレなカフェ
鹿児島の氷菓として有名な白クマだけど・・・
「めっちゃかわいい!!!!」
サイズは全長19cmととても大きく、
白クマの周りは旬のフルーツがめいいっぱいしきつめられてる。
シロップも伝統的な練乳ベースの「王道」味と、
カルダモンなどのスパイスがきいた「大人」味から選べる。
「耳はクッキーだよ!!キウイに!スイカに!オレンジに!すご〜い!!!」
こんな喜んでもらえるなら遅刻も悪くないかも!?(悪い)
「SANDECO COFFEE 数学カフェ」
鹿児島市名山町4-1-2F(鹿児島市役所・電車通りを挟んだ斜向かい)
(TEL/FAX)099-213-9533
(営業時間)10:00-17:30(L.O.17:00)
(定休日)火曜・水曜
お店を出ると早いもので16時。
夜は2人でお祭りに行く約束をしてるのだ。
そして、どうしても浴衣を着たいらしい。
一旦彼女はお家に帰り、着付けしてくるとのこと。
その間、僕は以前から気になってたところに時間をつぶすことに。
レトロフトチトセ
なんとも愛らしい響きと独特の雰囲気をもつビル。築50年近いビルをリノベーションし、古書店とアートギャラリースペース、カフェが入る。上階には若手アート系の方々が多く住む。
レトロフトという名前はレトロとロフト(居住スペース)から。
今日、僕は古書店にお邪魔することにした。
すごい・・・!
思わず息を飲む量の本と暖かな雰囲気がいかにも古書店らしい。
しかも絵本や児童書から哲学書、図鑑、文庫本・・とジャンルは無数
子どもから大人まで時間を忘れそう。
「レトロフト ブックパサージュ」
鹿児島市名山町2-1 レトロフト千歳ビル1F
(TEL/FAX)099-223-5066
(定休日)火曜・水曜
http://www.retroftmuseo.com/retroftchitose.html
(レトロフト千歳ビル)
待ち合わせの18時。
ど、どき・・
浴衣・・・めっちゃいい。
これぞ日本の夏、鹿児島の夏。
写真を撮ろうとする僕に気付く彼女。
「はやくはやく!出店いっぱいでてるよ~」
「かき氷とはしまきと!わたあめにヨーヨーすくい!焼きとうもろこしにリンゴ飴~!」
待って待って!そんな慌てたらこけるよ~!
(言ってみたかった)
かき氷を手に入れ、ご満悦の様子
いちご味ってとこがまたかわいい。
いろとりどりの灯籠に見とれる彼女。
「ねえねえ!こっちこっち!」
手をひかれ、言われるがままにひっぱっれていく僕
「うーん、むずかしーなー」
六月灯を堪能し、おなかも心も満たされた僕ら。
「たっくさん歩いたねー。そろそろ帰ろうか。」
最後に買ったリンゴ飴を取り出しながら彼女は言った。
「最初は遅刻されちゃって怒ったけど、なんだかんだ楽しかったよ!
歩いてみると、鹿児島市内にもたくさん楽しいとこってあるんだね。
まだまだ知らない場所も多いんだろうなって気づいた、ありがとう。」
急にお礼を言われて慌てる僕。
”冬が寒くてほんとに良かった”という歌詞もあるけど、
僕の場合、夏が暑くてほんとに良かった。
照れて顔が多少赤くなっていてもそれを暑さと日焼けのせいにできるから。
気づかれたら恥ずかしすぎる。男の意地ってものだ。
お父さんが迎えに来るというので、タカプラ前で彼女と別れる。タカプラの前には何人か浴衣の女の子がいるが、
僕の彼女が一番可愛いなあとその小さくなっていく後姿を見ながら思った。
普段とは違うデートでいつもと違う彼女が見れて本当に良かった。
本当はもう一つ言いたいことがあったんだけどな…。まあそれは、また今度でいいか。
夏はまだまだ終わらない。いつでも誘う機会はある。
そんなことを考えながら僕は、彼女をあげれるように綺麗に片づけ、
2人分の花火を用意していた自分の家に戻るのであった。
Fin.
鹿児島市 妄想デートいかがだったでしょうか?
鹿児島市に住んで6年間になりますが、初めて訪れる場所、行ったことがあってもただ何となく歩いていたことが多かったなと思いました。今回この記事を書く上で同じ場所・景色もまったく違う風に自分の目に写り、改めて鹿児島が好きになりました。 鹿児島市は近代日本をつくりあげた偉人の面影と情緒にあふれ、そして(今回は取材しなかったですが)桜島・錦江湾といった自然にも囲まれた素敵な土地です。何よりそういう街つくりをしてきた鹿児島の人々が素晴らしいと感じました。 最後になりましたが今回のデートプランの立案、監修は山田桃子さん(鹿児島大学法文学部4年/薩摩こんしぇるじゅ研修生)にお手伝いいただきました。薩摩こんしぇるじゅは鹿児島市中心部の観光名所を歩きながら案内するサービスで、鹿児島の歴史や自然、食の魅力を発信しています。車社会の今日、市内を市電や歩きで回ることは少なくなっているのかもしれません。しかし、歩くことでしか見えない鹿児島の素晴らしさが確かにあると感じました。この記事を読んでくださった皆さんにはぜひ鹿児島市をその足で存分に味わってほしい。そんなことを思いながら記事の締めくくりとさせていただきたいと思います。
(文・原田創、コース監修・山田桃子、写真・Ko、モデル・桃木野このみ)